日誌

45歳で店を開いた夫婦が家族で過ごす何気ない年越風景

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12月31日、岡山市北部は市内の中心部に比べるとかなり冷え込む。どんよりとした曇り空を確認してから寝床の片付けを始める。私は寝室を出てから、爪先立ちで小走りにリビングに向かい、暖房のスイッチをオンにしてからトイレに向かう。洗面台で顔を洗ってから相棒の寝室の引き戸を少しだけ開けて中の様子を窺う。もぞもぞ布団が動いているが、まだまだ起きそうな気配はない。戸を閉めてリビングに向かい、テレビをつけてからコーヒー豆を挽き始める。奮発して買った豆だけあって、挽きはじめると鼻の奥に香ばしい匂いが広がっていく。お天気ニュースでは、昼からは晴れるらしい。奥から、寝室の引き戸がガラガラと開く音がした。食パンを2枚、トースターにセットする。

boutiqueloisirは、29日まで営業してから年末と正月休みを頂くことにしていた。バタバタと過ぎ去った一年を振り返ろうとすると記憶が、ところどころ曖昧になっていることに気付く。やはり年末に差し掛かってくると、昔からの知り合いやらお客様やらが、次々と私達の田舎の店までわざわざ訪れてくれて清々しい忙しさとなった。何とか無事に年内の営業を終え、昨日は2人で家の中と店の掃除に明け暮れた。トースターから、パンを取り出して小鹿田焼の皿に載せて食卓に並べる。挽き終わったコーヒー豆をドリッパーに取り出してフィーノのポットでお湯を慎重に注いでいく。コーヒーの香りが食卓にふわっと広がり、ぼやっとした頭に浸透していく。

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時間は朝の9時ちょっと前、相棒がリビングに登場してくる。
「おはよう。」
私も、おはようを言って、
「ちょっと待ってよ、もう少しで入る。」
相棒は、軽く頷いてから
「お昼くらいには、来るんだって。」
来るんだって、というのは私の義理の母と実の娘、息子のことを指している。母は、今年で70歳になるが未だに会社勤めをしている。娘は、一昨年高校を卒業後に就職して社会人三年生となり、息子は今年、地元の大学に合格して大学一年生といった具合だ。今日は、ペーパードライバーの娘が車を運転してこの田舎まで皆んなをエスコートしてくれるらしい。12月は店のオープン作業や営業のこともあり、私達は田舎で寝泊まりするようにしていたので、週に2、3回会うような生活が続いていた。家族全員で顔を合わせるのは10日ぶりになる。
「運転は大丈夫かね?」
と相棒に尋ねてみると、
「ばあばもいるから、まあ何とかなるんじゃないかな。」
相棒は、コーヒーを飲みながら気楽に応える。
私は、パンを食べ終わり食器を洗い始める。家族が来るまでに、掃除と洗濯を済ませる段取りにしないとゆっくりできそうもない。サッと2人分の洗い物を済ませてから洗い場に向かう。

洗い場とは、風呂と洗濯機、洗面台のある部屋のことを指していて、家の東奥のクローゼットルームの向かいにある。風呂場が一番奥にあって洗濯機と物干しスペースが六畳ほどある。雨や曇りの日の物干しはもっぱらここだが、今日は雨は降らないので、曇りだが屋上を使うことにする。この屋上スペースは私の肝入りで作成したスペースのことだ。家の東奥の廊下の終点の右手の階段を上がれば屋上に通じている。階段を上がりきると、3畳ほどの小さな部屋があり部屋のドアを開けると低めの壁で仕切った6畳ほどの物干し、喫煙空間が広がっている。ドアを開けると真冬の空気が、一気に体に伝わってくる。震えながら可動式のビニールシートのハンドルを回して屋根を作り、洗い場から引っ張り出してきた洗濯物を干していく。一通り干し終わり、ベンチに腰掛けて煙草に火をつける。洗濯物にかからないように煙を吐き出し、持ってきていたマグからコーヒーを一口すする。

私は煙草を燻らせながら、会社を辞めて、二人で店を出したいという話を家族に打ち明けたときのことを思い出していた。いずれは店を出したいという話は、それとなく皆んなに伝えてはいたのだが、私が勤めていた会社の経営状況が芳しくなく依願退職を募り始めたのが大きなきっかけとなった。少し上乗せされた退職金を準備金として、田舎にあった祖母の家を改築して店舗兼住居にする話を切り出すのには、かなり勇気が必要だった。母の反応は、意外にもかなり肯定的だったので少し驚いた。母は、世間体や普通であることを重視する考えの持ち主なので良い顔はしないと予想していたからだ。逆に息子のほうが、大学受験もあってピリピリしていて露骨に不安を口にしてきた。そのときに意外な援軍として娘が私達の考えに賛同してくれたのはありがたかった。娘は就職して働いていたこともあり、自分も応援するからと私達を後押しをしてくれた。息子も受験が終わり、落ち着いてきたタイミングでは理解を示してくれるようになり、晴れて開業に向けての準備をしていくことになった。

煙草をもう一本吸ってから、一階に降りると相棒が掃除機で掃除を始めていた。私は冷えた体をリビングのファンヒーターで温めてから、クローゼットで着替えを始める。クローゼットの暖房をつけたタイミングで相棒も、掃除を終えて着替えにくる。私は、
「昼は、あそこにいこうか?」
と相棒に投げかけると、
「あそこだね、ほかにないもん。」
着替えながら、応えてくる。田舎には近所のうどん屋しか、行くところもないので必然的に行く場所は決まってしまう。家族そろっての外食はしばらくぶりなので、悪くはない。明日は正月で田舎の墓参りもあるので、初めてこの家に家族が泊まることになっていた。相棒も顔には出さないが、久しぶりに娘と一杯飲みながら過ごせることを楽しみにしている。いずれ、子供達と一緒にお酒を呑めるようになる事は、単純に年月を重ねていけば、当たり前のことかもしれない。反抗期には随分手を焼き、酷い言葉も浴びせられ、自分達は親として失格ではないかと思い詰めたこともあった。それでも、こうして今でも関係を崩すことなく一人の大人として、付き合える仲であることは、本当に奇跡なのかもしれない。

11時過ぎになると、曇天が解消されて晴れ間がでてきた。私は、屋上の屋根を収納してから店の入り口と、家の玄関にお飾りを設置する。あとは家と店の前の掃き掃除をしたら、簡易的だが正月の準備は完了だ。そうしていると、店の前の道路を白い軽四自動車が走ってくる。見覚えのある車なので、すぐにピンときて車を駐車場に招き入れる。娘の運転で同乗者の2人はかなりお疲れのように見える。私は娘に、
「大丈夫やった?」
と聞くと、娘は
「慣れた道やから大丈夫よ。」
と胸を張る。後ろの2人はげんなりしているので、なんとなく先程までのドライブの様子が伝わってきた。4人で井戸端会議をしていると、相棒も外に出てきて、
「大丈夫やった?」
と重ねて質問してくるので娘も、
「もう、しつこいなぁ。ちゃんと目的地には到着してるし…。」
と、信用のない両親を非難するように私達を睨んでくる。私は、
「皆んな、良かれと思って心配してくれてるんやから、無事で何よりよ。ところで、お腹減ったやろ?いつものうどん屋でいい?」
母が、
「他にないんかな、温泉のとこでもいいけど」
娘は、
「私、うどん。」
息子もうどん派に一票入れて、私達も賛同したので、母もそれに従う。3人は泊まりの荷物やら雑多なものを、家に放りこんで私の乗用車に乗り込んでいく。相棒が家の戸締りをしてから家族でご近所のうどん屋に向かう。
相棒が車中で娘と私に、
「後で買い物行くけど、あんたらビールでええの?」
と問いかけると娘が、
「うん、あとハイボールあったら尚嬉しい。てか、選びたいからついていく。」
と応える。すると、息子が、
「僕もビールでええよ。」
ときたので全員で、
「あんたはまだ早い」
賑やかで楽しい大晦日になりそうだ。

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