12月もいよいよ残すところ、あと一週間となり平日は暇な日が多いboutiqueloisirもなんとなく慌しくなってくる。顧客の方や、仕入れ先に出す年賀状は店のオープンに合わせて作成済みだ。店の外観と地図をイラストにしたもので、相棒の知り合いにデザインを依頼し、これまた知り合いに印刷してもらったものだ。余白にコメントを書いたら完了するようになっているがなかなか進まない。こういう作業は、2人とも腰が重くどっちかが気にしていないとスケジュール的に非常に危うい。夕焼けの陽が裏山の斜面に照り付け、部屋の窓にもその色がきれいに映っている。

私は朝から取り掛かっていた今年最後のブログ記事を予約投稿して、この年末の作業に取り掛かる決意を固める。自分の部屋から店に向かうと相棒は、カウンターの中でパソコンとにらめっこをしている。脇からパソコンの画面を覗いてみると、ネットショップの注文確認画面に、柳宗理のセラミックプレートとボウルのオーダーが入っている。なんとなく違和感を感じて、数量を目で確認してみると、小プレート白7枚、黒7枚、プレート白5枚、黒5枚、小ボウル白5枚、黒5枚にボウル白3枚、黒3枚。総数40枚の大口オーダーにびっくりして、
「おいおい、すげぇ大人買いやなぁ。」
と、私が呟くと相棒も、
「そうなんよぉ、ありがたいけど送り方どうしようか。」
と思案顔でこちらに顔を向けた。こんな大口はオープン以来初めてのことで私も、思わず腕組みしてしまう。私は、
「そもそも、在庫はあったんかなあ?」
と相棒に確認する。彼女はニヤッとして、
「なんとか、ギリギリセーフ。」
少し多いかと思いながらディスプレイにも使えるからと仕入れておいたのだ。
「ファインプレーやろ。」
と私も応えて、カウンターの棚から緩衝材やら梱包に使う材料を引っ張り出す。プレートを一枚ずつ梱包しながら、柳宗理の器との出会いを思い出す。

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はじめて柳宗理の器に出会ったのは、まだ結婚する前の相棒とカフェに出かけたときのことだった。サラダを注文し、運ばれてきたサラダのボウルとして使われていたのが、この柳宗理のセラミックボウルだったのだ。黒いボウルと白いボウルにそれぞれ盛り付けられてきたサラダは何の変哲もないものだっだが、妙に美味しく感じられたことが今でも忘れられない。
当時の私は洋服にばかり興味が向いていて器のことなど気にしたこともなく、裕福な人が趣味で骨董の器を収集するといった単純なイメージしか持ち合わせていなかった。そのカフェで運ばれてきた器には、国籍を感じさせない独特の佇まいがあり、何より私が心を惹かれたのは無駄を省いた潔いフォルムとカラーだった。その時の出会いは、磁器や陶器に対して抱いていた私の先入観を見事に打ち破るものとなった。その出会いがきっかけとなり、時間があればあちこちの雑貨屋を訪れてはその器を探すようになった。当時、インターネットはまだまだ普及しておらず情報が少ない時代で、手当たり次第に雑貨屋を巡ったがなかなか、そのカフェの器を探し出すことができなかった。やっとのことで市内の雑貨屋で販売されている実物を探し当て、その器が柳宗理という日本の工業デザイナーの手掛けたプロダクトであることを知ることになる。

その器は、セラミックという素材でできていて陶器に比べて耐久性があり、レンジで使うこともできる日用品であるということも分かった。価格は当時一点で2000円ほど。アルバイトを始めたばかりで、本当に貧乏な生活をしていたので悩みに悩んで白と黒のボウルをを一つずつ購入した。購入したその日に自宅のアパートに帰ってからカレーを作り、購入した器に盛り付けると、妙な満足感と不思議なことにいつもより少しだけカレーの味が美味しくなったような気がしたことを憶えている。それ以来、給料日ごとにプレートやボウルを買い増していき、今ではかなりの量が我が家の食器棚に並んでいる。もう20年近く使い込んでいる製品がまだまだ現役で活躍していることになる。さすがにところどころ、端が欠けているものもあるが完全に割れてしまったりしたものは一つもない。
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私はboutiqueloisirを開業するにあたって、相棒と一つのルールを決めた。それは自分達で実際に使ってみて、本当に気に入ったものだけを店の商品として扱うというものである。ひょっとしたら、もっと性能の良いものや、もっと値段の安いもの、デザインに優れたものもあるかもしれない。次々と新しい製品が発売され、それに伴う膨大な量の情報が溢れている世の中で、何か一つを選びとるのは非常に難しい。だからこそ、自分達がピンときた直感、そして実際に使用した経験には価値がある。この価値観を多くの人と共有したり、共感を得ることは、販売員時代から私達にとっては、とても幸福な時間であり、セレクトショップの醍醐味だと確信している。

思いを巡らしながら、相棒と一点ずつ商品を確認して梱包していく。すっかり日が暮れて外が薄暗くなった頃には、かなり大きな荷物が出来上がっていた。相棒はフゥッと息をついて、
「よし、今日は仕事したわぁ。」
と呟く。オープン後すぐに、県北部からのお客さんと旅行の一見さんが買い物をしてくれたらしい。平日に2組のお客さんが買い物をしてくれたら、その日はかなり好調な一日と言える。
「お疲れ様、忙しかった?」
私が問いかけると、相棒が、
「いやあ、松山さん来てくれて一通り接客やってから次のお客さん来てくれたから全然大丈夫。松山さんはアウターとインナーとパンツまで買ってくれたわ。ほんでお初の人は、島根から来てくれたんだって。ブログ見て来てくれたみたいよ、で、ニット買ってくれた。意外と近かったって言ってくれてたからまた来てくれるっぽい。」
と、楽しそうに話してくれる。私は荷物の送り状を用意して貼り付け、相棒のほうはお客さんにメールを送ってから、明日の集荷予約の電話を入れる。

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日はすっかり落ちて、夕方5時を回っていた。肌寒くなり、私はエアコンの温度設定を2℃ほど上げる。そこから閉店までの時間を使って私達は、年賀状のコメント書きに没頭する。しばらく音沙汰していない知人にも、今回ばかりは宣伝を兼ねて送るようにしていたので例年よりかなり時間がかかったが、何とか6時前にはお互いの作業が完了していた。相棒が、
「あー、疲れた。今日は何にする?」
晩ご飯のことなのだが、最近は二人きりなので食べに行ったりすることも多い。
「材料何があるかな?ジャガイモとか肉とか、人参、玉ねぎとか。」
私は、相棒に野菜のストック確認を行う。相棒は、
「全部あるけど、どうしようか?」
私は、
「じゃ、店の片付け頼んでいいかな?今日は僕がカレー作る。」
「おっ、珍しい、ホントに?もちろん片付けはやっとくよ、やったー。」
と相棒は、おどけて店仕舞いを始める。
今日は、昔のことを思い出していたらカレーが食べたくなっていて、たまには相棒に振る舞ってやろうという気分になっていた。私は、一足先に家に上がって手を洗い、肉を炒めて野菜を切り始める。店の作業を終えた相棒が家に入ってきてパントリーをゴソゴソし始める。私は、
「ついでに、カレー粉持ってきて。」
と相棒に声をかける。すると、相棒が申し訳なさそうに、
「申し訳ないけどカレー粉がない。」
「えーっ。」
と私が悲鳴を上げる。相棒はそそくさと、車でスーパーに走っていった。

