ヌジャベスと聞いて、ピンとくる方は案外少ないかもしれません。しかし、彼が世に送り出した作品は皆さんの日常生活の中でも、頻繁に耳にしたことがあるはずです。私がヌジャベスに出会ったのは、まだ30代の頃でもっぱらジャズやボサノヴァを聴きまくっていた時だと思います。知人や、友人からヒップホップを勧められてはいましたが、ヘビーでブラックなイメージが先行してあまり良いイメージを持ってはいませんでした。そんな時に、お気に入りのショップで買い物をしていて流れてきた音楽が、ヌジャベスでした。すぐに、スタッフに誰の音楽かを確認して、その足でレコードショップに走った想い出があります。そのショップでたまたま聴いた「reflection eternal」という作品が私とヌジャベスをつないでくれたのですが、それ以降はすっかり彼の音楽の虜になってしまいました。1990年代から彼が作り出した一連の音楽は、当時の常識に囚われない先進的なものでした。いまだに国内に留まらず、海外のアーティスト達にもリスペクトされるヌジャベスの音楽について今回はお話ししていきます。
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[ヌジャベス]
瀬場 潤(せば じゅん)、本名は山田 淳(やまだ じゅん)。アーティスト名であるヌジャベスは、瀬場 潤をローマ字表記にして、逆から並びかえたものです。ヒップホップのトラックメイカー、音楽プロデューサーとして活躍した彼の音楽はジャズとヒップホップを合わせたジャジーヒップホップと呼ばれています。数多くの作品、アーティストとの共作、異ジャンルへの楽曲提供と幅広く活動するも、2010年に交通事故で逝去します。2010年代から脚光を浴びたローファイヒップホップの源流とも言えるその音楽観は、いまだに多くのアーティストに影響を与えています。
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1)ヒップホップのイメージを一変
ヒップホップは、もともと1970年代にニューヨークのブロンクスを発祥とする文化です。
DJ、ブレイクダンス、グラフィティ、ラップという4本柱からなるヒップホップは、ブロンクスのストリートギャング達の歴史にも深く影響しています。ギャング同士の抗争に死者や怪我人を出さない代わりに、ダンス、ラップ、DJプレイにおいて、その勝敗を競った話はあまりにも有名です。そんなヒップホップですから不良、荒々しい、ドスがきいている、そんなイメージばかりが先行していました。しかしヌジャベスの登場によってヒップホップの持つダークなイメージは随分、解消されたのではないでしょうか。ヌジャベスの作り出した音楽は、ヒップホップのサンプリングという手法にジャズやニューミュージックを用いることにより、既存のヒップホップ=ブラックミュージックという概念を取り払いました。こうして、彼の手で作り出された全く新しいヒップホップミュージックは、ジャジーヒップホップと呼ばれるようになり、彼が主催した Hydeout Productionsにはヌジャベスに共感した多くのアーティスト達が国内外を問わず集まりました。
2)日本人の心に響く情景溢れる音
ヒップホップに属するそれぞれの要素はやがて、アメリカのみに留まらず世界的な広がりを見せ各国で、独自の進化を遂げました。その中の一ろつがヌジャベスに代表されるジャジーヒップホップという訳です。彼は、ヒップホップミュージックの手法であるサンプリングの際にも、日本人の耳に残る余韻や空気感を非常に大切にしました。ソフトによって機械的に切り取るのではなく、自らの感覚を頼りに非常に細かい作業を繰り返すことにより一つの音を紡いでいきました。完成した作品には、サンプリングによる単調なループの中にも日本人が大切にするニュアンス、侘び寂びとも言える余韻が表現され、本場のアーティスト達にも絶賛される境地へと進化していったのです。私も彼の作品を聴いて、浮かぶ情景の中に、望郷の念や、無常感にも似た今を生きる意味、などいろいろな想いが巡り、ただ美しい音楽というだけではない奥深さに、のめり込んでしまいました。
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3)ジャンルを超えた音楽活動
ヌジャベスは、実に多くのアーティスト達との共作、楽曲提供を行っています。中でも、ヒップホップと対極にあるかのような音楽で知られるアーティストのharuka nakamuraとの共作「Lamp」、ファットジョンとの共作となったアニメ「サムライチャンプルー」への楽曲提供は一流アーティストがアニメの音楽に携わるという意味では当時としては画期的でした。ジャンルに囚われず、彼の自由な目線で本質を嗅ぎ分けるかのような思い切った動きは、音楽におけるジャンル分けの無意味さ、とにかく良いものは良い、楽しいと感じるという価値観に集約されています。様々なアーティストとの化学反応を繰り返して、ヌジャベスの血脈は今を生きるアーティスト達にも受け継がれています。
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[まとめ]
ファッションに、流行というキーワードがなくなりつつある現代においては、一般ユーザーは常に自由という名の不自由に悩まされています。品物や情報は常に周りに溢れているけど、何を選びとっていいか分からない、正解がわからないといった現象です。音楽においても、ジャンルの垣根がなくなり、音楽配信の発達によって音楽との関わり方は、実に多様化しています。そんな時代だからこそ、偏見や決めつけにとらわれずフラットな気持ちで、聴いて気持ち良い、心に響く音、癒される音、いつもと違う自分になれそうな音をヌジャベスの作品で体感してみてはいかがでしょう。
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