小川糸さんの"食堂かたつむり"は私の愛読している一冊です。今回は、この"食堂かたつむり"から飲食店に限らず、店舗の価値や格を高めていく為に必要な要素についてお話ししていきます。私達の生活において、様々なサービスを提供するお店があることは、空気や水があるくらい自然なことです。毎日のように多くの店が新しくオープンする一方、残念ながら消えていくお店も同じくらい多く存在しています。そして、生き残る店、長く続いている店には共通していることがあります。"食堂かたつむり"はいわゆる田舎にある食堂ですが、店を運営していく上で忘れてはならないことが、分かりやすく描かれていてます。
[食堂かたつむりのあらすじ]
主人公の倫子は、同棲していたインド人の恋人と食堂を開くという夢を持っていました。しかし、恋人に全ての財産を持ち逃げされ、ショックのあまり声を失います。傷心の倫子は唯一、残った祖母の糠床とともに、実家のある山村に帰郷します。倫子は、シングルマザーでスナックを経営している母のルリコとは、親子関係が良好ではありませんが、ペットの豚であるエルメスの世話をすることを条件に、実家の倉庫を間借りして、"食堂かたつむり"と名付けた食堂をオープンします。食堂は1日1組限定で、決まったメニューはなく事前に面接してその人に合った料理を出すことにしています。
倫子は、食堂にやって来るいろいろな悩みを抱えた人達を料理の力で、癒していきます。次第に、食堂かたつむりで食事をすれば願いが叶うという噂まで広がっていきます。
1)店のウリ、コンセプト
食堂かたつむりには、メニューがありません。面接で、お客様に合う料理をその都度オーダーメイドしているのです。このスタイルこそ、食堂かたつむりのウリ、看板とも言えます。飲食店に限らず、繁盛する店、長く続いている店にはその店の武器、他の店では真似できないウリがあります。全てのお客様に満足してもらえるウリを作るのは不可能ですが、共感してくれるお客様が多ければ店は繁盛します。ウリがニッチであれば、お客様は少ないかもしれませんが、より濃いリピーターとなってくれます。逆に、ウリがない店はお客様にとってわざわざ出向く場所にならない為、次第に忘れられていきます。店の規模によってどんな店にしたいか、オーナーの戦略や嗜好が強く反映される、いわば店の第一印象を決める重要な要素なのです。
食堂かたつむりは、一日一組、メニューを事前の面接で決めるスタイルですから、かなりニッチなコンセプトです。お客様は特別な日に、特別な人と、食事をしたい時に選びたいと思うはずです。
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2)おもてなしの気持ち
どんな店、スタッフにも、等しく必要なことはお客様を店にお迎えする気持ちです。挨拶や言葉遣いはもちろん、お客様が求めることに先回りする気遣い、お客様が求める以上の対応が感動を呼びます。
食堂かたつむりは、お客様との距離が非常に近く、より深い接客やおもてなしが必要な店です。主人公の倫子は、面接でそれぞれのお客様に合うメニューを決めて悩みや問題の解決に前向きになれるよう願いを込めて料理を作ります。一日一組と決めたお客様に彼女ができる最大限のおもてなしの気持ちを込めているのです。これがお客様がイメージした以上の感動として心に残るのです。
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3)ファンのお客様
店の商品やメニュー、接客を気に入って何度も足を運んでくれるお客様、いわばファンの方は店を運営するには欠かせません。最初は、店員とお客様という一般的な関係性が、友人のような関係へと変化し、店のサービスや商品を飛び越えた人間関係が出来上がります。倫子は、料理を提供して食べてもらう行為を越えて、お客様のプライベートな悩み、問題の解決につながるようなレベルの関係を作っていきます。このように商品やサービスだけでのつながりではないファンのお客様、顧客の存在は店の格を上げ、スタッフのモチベーションにもつながります。そして、ファンのお客様は勝手に店の宣伝をしてくれたり、新たなお客様を連れてきてくれます。このようなプラスの連鎖がおこり、その店は次第に繁盛店へと変貌していくのです。
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[まとめ]
ここまで、店の価値を高めていく為に必要な事についてお話ししてきました。大きく三つの要素に分けていますが、この三つの要素は全て繋がっていて、どれ一つ疎かにしてもいけないことです。いずれも、基本的で当たり前の事のように思えますが、実践できていない店のほうが多いでしょう。忙しくなれば、接客が疎かになり、効率を求めて手抜きをしたり、もっと儲けたいと思えば、品質の悪くて安い食材や商品に変えてしまうことは、よく聞く話です。
食堂かたつむりには、特別な日、特別な人との食事をより幸せに味わってもらうという倫子の願いが込められています。料理を通してお客様の気持ちに寄り添う接客、そして倫子の料理と気持ちに触れてファンとなるお客様。いずれをとってもお金に換えられない三つの要素が、店の価値を決めることがお分かり頂けたかと思います。